囚われの姫と騎士達
 時空管理局軌道拘置所。
 ここは犯罪者の中でも特に危険と認識される者が収容される、最高クラスの監視体制が敷かれた施設である。
 特務機関NERVに所属する白衣の男は、ゆえあってその触れざる領域に赴いていた。
「ごきげんよう、八神はやて君。特別室の気分はどうだい? この部屋を利用出来るVIPはそうそういないよ。そう、私のような」
 特別室。確かにこのその部屋は特別であった。壁一面に刻み込まれた封魔の方陣と、硬く重い拘束具。魔法、物理どちらの手段を用いても脱出のかなわない多重の頸木。
「最悪やね。いつになったらチェックアウトできるん?」
 闇の書の消滅後、諸所の法的なやりとりを果たすために本局へ召喚されたはやて達を待っていたのは、逮捕と拘禁であった。
 当初はリンディ・ハラオウン、クロノ・ハラオウン及びギル・グレアムの後ろ盾を利用しての保護観察という形で穏便に事を運ぶ筈であったが、事件規模の大きさとグレアム自身が犯罪者となって失脚した事実は大きく、最終的には軌道拘置所で正式な裁判を待つことになったのだ。
「それは君の心持ち次第だよ、希有なる魔導騎士殿」
「わたしはどうなってもかまわへん! シグナムたちだけでも……悪い子ちゃうから!」
 部下を庇う主……というよりも、我が子を守らんとする母の姿がそこにあった。とても若干九歳とは思えない我が身の厭わなさは、見る者の心を強く打ったに違いない。それが普通の神経の持ち主ならば。
「本局では、夜天の書とヴォルケンリッターを危険視する声も多くてね。念の為このまま虚数空間へ追放するべきだとも言われてるのだよ。やはり次元犯罪者に対して現実は甘くないねぇ。クハハハ……!!」
「んな!?」
 顔色を蒼白にする少女に対し、男は自分が戯れに切ったカードの示した効果に満足気な表情を浮かべていた。もっとも、はやてにそれを読み取ることはできない。何故なら、男は仮面の下に素顔を隠していたからだ。
「管理局任務への従事という形での、罪の償い……。これは保護観察という話で済んでいた時点でも提示されていた条件だったのは、覚えているかね?」
「どないすればいいん!?」
 一転して半ば開き直り気味ながらも毅然と言い放つはやてに、鷹揚に頷きながら男は告げた。
「ちょっとその身を投げ出す覚悟で戦って欲しい。それだけだよ」